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作品一覧
PLUME   ―SF? ホラー? ……んー、サイコホラーかな?―
  何の変哲もない高校生だった一ノ瀬俊之は、
  夏休みも迫った水無月のある日、一人の色の薄い少女に出会う――。

   【登場人物紹介】
   -the value of alpha-
    【序文】【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
    【12】【13】【14】【15】【16】【17】【18】【19】【20】【21】【22】
   -the down of psi-
    【序文】【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】

蒼海の紅いしゃぼん玉   ―ファンタジー―
  中規模都市の高校に通う本藤沙紀は、文芸部に所属していた。
  先輩の助言に従って、シャッター街を訪れた彼女が見つけたのは――。

   序章
    【1】【2】【3】
   一、出会い
    【1】

読み切り
   【つみびとのうた】【常葉のそら】

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[ 2009/01.12 22:43 ] 〈自作小説 | 小説・文学 | PLUME
 結局、全部金は二階堂がもってくれた。よっ、金持ち~と言ってやった。何か不服そうな顔をしていた。まあ、あれだけ独壇場で歌い続ければ、それくらいして貰わないと。店の前で、リョータとは別れた。さてどうするか。まだ陽は高いし。ていうか――
「耳、痛ぇ~」
「どうだ? ちったぁ染まったか」
「全力で耐えた」
ちっ。舌打ちするのが聞こえた。
「ていうか、もしかしてケースケとかリョータにも、あの地獄のフルコース、やってるのか?」
「あれは俺らの間で最凶の罰ゲームだ」
「――下手すりゃ死ぬぞ、あれ……」
 本当に気の毒。
「そういえばさ、一ノ瀬。最近、どーだ?」
「なにが?」
「……その、ユウのこった」
「ああ、別に。いつもどーりだよ。――え?」
 僕、二階堂にユウのこと話したっけか?
「二階堂、なんでユウのこと知ってるんだ? 僕、話したか?」
 急にびくっとしたかと思うと、目に見えて二階堂は冷や汗を掻いた。それから、えーっと、あー、とかいって、「あ、あれだよ! たまたま、知り合ってさ! 本人からお前のこと聞いたんだよ!」と続けた。眼がそこかしこへ泳ぎまくっている。
「ふーん……」
「でさ! お前、どう思ってんだ?」
「どうって?」
「んだから、あれだよ!」
「――……別に。ただの雇い主。幼馴染だ」
 二階堂の冷や汗が止まった。水泳していた眼は僕の眼を覗き込みに来た。真意を見ているように。それから急に、「そっか、そーならいいんだけどよ……」と声のトーンを落として言った。
「――お前、ひょっとして……?」
「ちっ、ちげーよ! そんなんじゃ……」
「なんなら僕から言ってやろうか?」
「……そんなんじゃ、伝わんねぇだろ……」
二階堂は、拳を握り締めていた。眼を伏せ、わざと目を反らした。分かりやすいヤツだ。自分でバラしてしまった。
「じゃ、じゃな……ほかのヤツにも……よろしくいっといてくれ」
そう言葉を残し、走っていってしまった。ちょっと、無骨にものを言い過ぎたか。今度会ったら、謝っとこう。……そういえば、よろしくって事務所のみんなか? 意外とユウって喋りなんだな。
 事務所から出た時には、はるか遠くに身を置いていたあの入道雲も、今では僕の頭上。それも真っ黒い腹を見せ付けて。一雨来そうだ。ヒュレイを引き取りに行かなきゃならないし、一旦戻ろう。そう考えた時、ふと、幼稚園児を迎えに行く母親って、こんな気持ちなのかな、と思ってしまった。含み笑いを漏らし、僕は町並みを歩き出した。こう、もう一度無意識に呟いて。
 『ただの雇い主。幼馴染だ』。
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